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高松高等裁判所 昭和61年(ネ)25号 判決 1988年3月31日

控訴人 西由香利

右法定代理人親権者父 西英昭

控訴人 池田孝

右両名訴訟代理人弁護士 宮竹良文

被控訴人 日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役 真藤恒

右訴訟代理人弁護士 河本重弘

右指定代理人 久保輝男

<ほか二名>

被控訴人補助参加人 高松市土地開発公社

右代表者理事 鎌田忠

右訴訟代理人弁護士 河村正和

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用及び参加費用はいずれも控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は控訴人由香利に対し、原判決別紙物件目録(一)記載の土地部分につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三)  前項の土地部分につき、控訴人由香利が所有権を有することを確認する。

(四)  被控訴人は控訴人池田に対し、原判決別紙物件目録(二)記載の土地部分につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(五)  前項の土地部分につき、控訴人池田が所有権を有することを確認する。

(六)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する被控訴人、補助参加人の答弁

(一)  主文第一項と同旨。

(二)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張

1  控訴人らの請求原因

(一)  原判決別紙物件目録(一)記載の土地部分(ただし、同目録(一)の三行目「宅地八三七一・七七平方メートル」を「宅地八三四一・九八平方メートル」に改める。以下「本件(一)の土地部分」という。)は現在香川県木田郡牟礼町大字牟礼字川原二三二七番三の土地(以下「二三二七番三の土地」という。関係土地の所在場所は「字川原」まで右と同じであるから、以下関係土地は地番のみで表示する。)の一部となっているが、昭和五〇年三月二四日以前は二三四〇番の土地の一部であった。

(二)  右二三四〇番の土地は承継前の一審原告亡西保子(以下「亡保子」という。)の所有であったところ、昭和五〇年三月二四日亡保子の知らないうちに株式会社三立(以下「三立」という。)の代表者である新開敏弘(以下「新開」という。)により二三四〇番の一の土地と同番二の土地に分筆され、本件(一)の土地部分に当る同番二の土地は交換を原因として亡保子から三立に所有権が移転した旨の登記が経由されている。

(三)  その後、登記簿によると二三四〇番二の土地は昭和五〇年三月二六日二三二九番一の土地に合筆され、更に同土地は昭和五一年八月三日二三二七番三の土地に合筆されている。

(四)  亡保子は昭和五六年九月一四日に死亡し、控訴人由香利がその権利義務一切を相続した。

(五)  原判決別紙物件目録(二)の土地部分(以下「本件(二)の土地部分」という。)は現在二三二七番三の土地の一部となっているが、昭和五〇年三月二四日以前は二三四二番一の土地の一部であった。

(六)  右二三四二番一の土地は控訴人池田の所有であったところ、昭和五〇年三月二四日同控訴人の知らないうちに新開により二三四二番一の土地と同番三の土地に分筆され、本件(二)の土地部分に当る同番三の土地は交換を原因として同控訴人から三立に所有権が移転した旨の登記が経由されている。

(七)  その後、登記簿によると二三四二番三の土地は昭和五〇年三月二六日二三四〇番二の土地に、同土地は同日二三二九番一の土地にそれぞれ合筆され、更に同土地は昭和五一年八月三日二三二七番三の土地に合筆されている。

(八)  したがって、現在の二三二七番三の土地に含まれている本件(一)の土地部分は控訴人由香利の所有であり、本件(二)の土地部分は控訴人池田の所有であるところ、二三二七番三の土地は現在被控訴人を権利者とする所有権取得登記が経由されており、被控訴人は右各土地に対する控訴人らの所有権を争っている。

(九)  よって、被控訴人に対し、控訴人由香利は本件(一)の土地部分につき、控訴人池田は本件(二)の土地部分につき真正な登記名義の回復を原因とする各所有権移転登記手続を求めるとともに、各関係土地部分につき控訴人らが所有権を有することの確認を求める。

2  請求原因に対する被控訴人の認否

請求原因事実中、分筆・合筆前の二三四〇番の土地(以下「当初の二三四〇番の土地」という。)が亡保子の、同二三四二番一の土地(以下「当初の二三四二番一の土地」という。)が控訴人池田の各所有であったこと、二三二九番一の土地が昭和五一年八月三日二三二七番三の土地に合筆されたこと及び同土地につき被控訴人名義の所有権取得登記が経由されていることは認めるが、本件(一)の土地部分が控訴人由香利の、本件(二)の土地部分が控訴人池田の各所有であることは否認する。その余は不知。

3  被控訴人及び補助参加人の抗弁

(一)  本件(一)の土地部分は控訴人由香利から、本件(二)の土地部分は控訴人池田から三立がそれぞれ交換により所有権を取得し、その移転登記を経由している。その経緯は次のとおりである。

(1) 亡保子の所有する当初の二三四〇番の土地及び控訴人池田の所有する当初の二三四二番一の土地を含む付近一帯の広大な土地(通称菜切地区)は三立を筆頭に亡保子、控訴人池田ら一七名の所有であったが、右一七名は共同して昭和四九年一〇月二八日都市計画法に基づき香川県知事に開発行為の許可を申請し、昭和五〇年三月一八日にその許可を受けた。右開発行為に関しては三立を中心に地権者間で再三協議が行われ、牟礼町都市計画課の指導の下に説明会もあり、昭和四九年六月ころには土地開発に伴う諸施設並びに各開発者の減歩率・工事負担金・換地位置指定等について開発行為者間に合意が成立し、これに基づき必要な図面が作成された。亡保子及び控訴人池田は右開発工事に伴う宅地造成に積極的に賛成し、共同開発行為の代表である三立の工事施行に同意していた。ただ、亡保子は経験も乏しく株式会社三越に勤務していたので、新開に対し、同居の実母ヨネ子(以下「ヨネ子」という。)に右開発行為に関する一切の代理権限を委任する旨表示し、ヨネ子は右委任に基づき亡保子の代理人として右土地開発に同意した。

(2) そこで、三立は第一ないし第三工区に分けて開発工事を進めることにし、まず第一工区の開発に着手したが、亡保子所有の当初の二三四〇番の土地及び控訴人池田所有の当初の二三四二番一の土地の各一部が第一工区にまたがっていたので、ヨネ子及び控訴人池田に対し、第一工区に属する部分を分筆して第一工区を取得する者に譲渡するため、とりあえず三立に譲渡するよう申し入れたところ、両名は必要な分筆及び分筆土地の所有権移転登記手続を承諾し、新開に対し右各土地の権利証・印鑑登録証明書・委任状等を交付したので、これに基づき二三四〇番の土地が同番一、二の土地に、二三四二番一の土地が同番一、三の土地にそれぞれ分筆され、交換を原因としてそれぞれ三立に所有権移転登記が経由された。

(3) したがって、ヨネ子は右分筆及び所有権移転につき亡保子からその代理権を授与されていたものであり、仮に代理権を有していなかったとしても、亡保子は新開に対しヨネ子に右開発行為に関する一切の権限を与えた旨表示しているから、三立への交換を原因とする所有権の移転及び同登記申請は右権限の範囲を超えたものであるところ、三立はヨネ子にその権限があると信じるにつき正当な事由があったから民法一〇九条・一一〇条により表見代理が成立する。

(二)  補助参加人は昭和五〇年三月二五日三立から同社が開発した本件(一)及び(二)の各土地部分を含む約一万一七〇〇平方メートルの土地を買い受けその所有権を取得し、被控訴人は同月二八日補助参加人から右土地を交換によってその所有権を取得した。

(三)  仮に本件(一)及び(二)の各土地部分の所有権が三立に移転していないとしても、亡保子及び控訴人池田は三立と通じて右各土地部分の所有権が三立に移転した旨登記したものであるから、民法九四条二項の類推によりこれを信じて譲り受けた善意・無過失の第三者である補助参加人及び同人から更に所有権の譲渡を受けた被控訴人に対し三立に右各所有権の移転がなかったことをもって対抗できない。

(四)  ヨネ子及び控訴人池田は本件(一)及び(二)の各土地部分が第一工区として造成され、被控訴人がこれらを譲り受けその地上に職員住宅の建築を始めたことを知りながら、何らの異議を述べなかったのであるから、右住宅が竣工した後になって異議を述べるのは信義則に反し、権利の濫用である。

4  抗弁に対する控訴人らの認否

(一)(1)  抗弁(一)の(1)の事実中、土地開発に伴う各開発者の減歩率・工事負担金・換地位置指定等について合意が成立したこと、亡保子及び控訴人池田が共同開発に同意したこと及び亡保子が新開に対し開発行為に関する一切の権限をヨネ子に委任する旨表示したことはいずれも否認する。

もっとも、控訴人池田は開発行為同意書に押印しているが、それは右同意書を三立が開発行為をするにあたり隣接する自己所有地に降雨等によって土砂が流入する等の迷惑が掛かっても異議を言わないというにすぎないと考えたからである。また、右同意書に亡保子の押印があるが、それはヨネ子が亡保子の承諾を得ずに同様な理由から押印したものである。

(2) 同(2)の事実中、土地の分筆及び三立への所有権移転登記が経由されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右各分筆・所有権移転登記がなされた経緯は次のとおりである。

新開は昭和五〇年三月一八日ヨネ子方を訪れ同人に対し宅地造成にいるからと称して亡保子の実印を借り受け、持参の文書を見せることなくこれに押印した。その際、ヨネ子は新開に対し亡保子の承諾を得ずに印鑑登録のうえ交付を受けていた印鑑登録証明書と権利証を渡した。また、控訴人池田は昭和五〇年三月一七日新開から「早急に電電公社に対し提出したいので、権利証を貸してくれ。」と言われこれを貸し与え、その翌日妻美子は三立の従業員から「主人と話ができているので、実印を貸してくれ。」と言われこれを信用して実印を貸したところ、右従業員は持参の文書を見せず勝手にこれを押印した。これらの文書等の冒用によって前記分筆・移転登記が経由されたものである。

被控訴人及び補助参加人は亡保子及び控訴人池田と三立との間に交換契約が成立した旨主張するが、交換が成立するためには当事者それぞれに対応する具体的見返りの存在が前提となるところ、本件(一)及び(二)の各土地部分と交換される対象となる三立の所有地については、前記移転登記が経由された当時はもとより開発行為の途中においても交換土地又は配分土地について当事者間に合意が成立した事実はなく、亡保子及び控訴人池田が三立と交換契約を締結する動機も理由もない。

(3) 同(3)は争う。

(二)  同(二)は不知。

(三)  同(三)、(四)は争う。

三  証拠関係《省略》

理由

一  当初の二三四〇番の土地が亡保子の、当初の二三四二番一の土地が控訴人池田の各所有であったこと、二三二九番一の土地が昭和五一年八月三日二三二七番三の土地に合筆されたこと及び同土地につき被控訴人名義の所有権取得登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、請求原因(四)の事実は被控訴人において明らかに争わないので自白したものとみなす。そして、《証拠省略》によると、当初の二三四〇番及び二三四二番一の各土地の分・合筆状況は別紙関係土地分・合筆図のとおりであること、したがって現在の二三二七番三の土地中に当初の二三四〇番の土地から分筆された同番二雑種地九三平方メートル及び当初の二三四二番一の土地から分筆された同番三の雑種地一九二平方メートルが含まれ、前者が本件(一)の土地部分に、後者が本件(二)の土地部分に当ることが認められる。

そうすると、特段の事由のない限り、本件(一)の土地部分は控訴人由香利の、本件(二)の土地部分は控訴人池田の各所有に属することとなる。

二  被控訴人及び補助参加人は抗弁として、三立が交換により本件(一)、(二)の各土地部分の所有権を取得し、補助参加人は三立から、被控訴人は補助参加人から順次右各所有権を取得した旨主張するので検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  当初の二三四〇番及び二三四二番一の各土地を含む付近一帯の土地約三万三〇〇〇平方メートルは牟礼町菜切地区と称され、三立、亡保子、控訴人池田ら一七名の所有であったが、不動産業等を営む三立は昭和四九年六月ころ同地区内の自己所有土地の宅地造成を計画し、所管の牟礼町都市計画課に相談したところ、三立だけの開発は認めない、同区域内の地主一七名が共同して都市計画法による開発許可の申請をするよう指導された。そこで、三立の代表者新開はこれに従って共同開発するため、そのころ牟礼町職員の出席を求めたうえ関係地主らに対する説明会を開いたところ、右地主らも右開発に賛成した。第二回目は進入道路の関係者、第三回目は再度地主らからそれぞれ開発工事の進行を確認し、開発申請に必要な土地利用計画図面等の作成を説明した。地主ら一七名は本人又は代理人が出席しこれを承諾した。

2  右開発許可は牟礼町都市計画課を経た県知事あての申請に対してなされることと定められていたため、共同開発の代表者として三立の新開がその手続に当り、申請書に同意印を得るため各地主を回った。亡保子は当時株式会社三越高松店に勤めていたが、同店を訪ねてきた新開から開発計画の説明を受けたのち、同人に対し、同居の実母ヨネ子に任せているから同人と打合せするように言い、ヨネ子も亡保子からその依頼を受けていた。新開は昭和四九年一〇月二八日ころ食堂を営んでいるヨネ子を訪ね、持参の開発行為許可申請書の亡保子名下に押印を求めたところ、ヨネ子は亡保子から預かっていた同人の印を自ら又は新開を介して押した。もっとも、右印は登録印でなかったためその後ヨネ子は新開の要求に応じ亡保子名義の印鑑登録をし同証明書を新開に交付するとともに、前記申請書の印を実印で押し直している。また、控訴人池田も同年一〇月二八日ころ新開が持参した同控訴人名義の開発行為許可申請書に自ら又は新開を介して押印している。

3  三立は同年一一月ころから三工区に分けて開発工事を進めることになり、まず大規模住宅用地にする第一工区の開発から着手した。ところが、第一工区は方形の土地に造成する必要があり、そのため当初の二三四〇番及び二三四二番一の各土地の一部、すなわち、本件(一)及び(二)の各土地部分に当る一部を分筆して第一工区に含める必要があった。そこで、新開は右各土地を分筆のうえ、ひとまず交換を原因として三立に所有権を移転することとし、昭和五〇年三月二二日ころヨネ子方を訪れ同人に対し「東の土地(二三四〇番の土地)分で早くせないかん。」と言って右分筆及び所有権移転各登記申請のための亡保子名義の委任状に押印を求めたところ、ヨネ子は開発手続に必要なものと信じ、自ら又は新開を介してこれに押印するとともに新開に対し亡保子の印鑑登録証明書を交付し、更にそのころ新開に対し二三四〇番の土地の権利証も交付した。控訴人池田も同年三月一七日ころ訪れた新開の求めるままに二三四二番一の土地の権利証を渡し、その翌日には妻美子が訪れた三立の従業員に同控訴人の実印を渡し、持参の分筆及び所有権移転各登記の委任状であったと思われる書類に押印させ、そのころ新開に対し同控訴人の印鑑登録証明書も交付している。新開はこれらの書類を使用して司法書士に分筆及び所有権移転登記手続を委任し、これに基づき同年三月二四日当初の二三四〇番の土地が同番一と同番二の各土地に、当初の二三四二番一の土地から同番三の土地がそれぞれ分筆(以下「本件各分筆」という。)され、同日三立を権利者とし同月二〇日付交換を原因とする二三四〇番二雑種地九三平方メートル及び二三四二番三雑種地一九二平方メートルの各所有権移転登記(以下「本件各移転登記」という。)が経由された。

4  ヨネ子は同年五月ころ前記二三四〇番二の土地についてその分筆・三立への所有権移転登記とともに、地上に杭が打たれ被控訴人のマークが付けられているのを知ったが、土地の造成がうまく行き環境が良くなればよいと思って格別異議の申出をしなかった。また、控訴人池田も同年四月初めころ前記二三四二番三の土地についてその分筆・三立への所有権移転登記とともに、地上に現場工事事務所が建っているのを知り、権利証を渡したことと関係があると思ったが、他の工区で調整がなされると考え同様異議の申出をしなかった。ところが、ヨネ子及び控訴人池田は後記三立の倒産により第二、第三工区の工事ができなくなってから前記各関係土地の分筆・移転登記の不当を主張するようになった。

5  右各土地はその後前記のように二度合筆され、同年三月二五日売買により補助参加人に、同月二八日交換により被控訴人にそれぞれ譲渡されている。

6  三立は昭和五一年四月三〇日倒産したため、開発工事は第一工区の完成をみたものの、以後の工事が続行できず、牟礼町職員の仲介も効なく現在第二、第三工区の開発工事は放置されたままである。

7  前記三立に所有権移転登記された二三四〇番二及び二三四二番三の各土地の交換として三立が亡保子又は控訴人池田に提供すべき土地については明確な合意がなく、新開は第三工区でその見返りの土地を作り出し同人らに提供する積りであった。

《証拠判断省略》

右認定事実によると、亡保子から本件開発工事に関する一切の手続を任されていたヨネ子は直接又は三立の代表者新開がその承諾を得て開発許可申請書の亡保子名下に同人の印を押印し、かつ、ヨネ子は第一工区の開発工事に必要な前記二三四〇番二の土地の分筆及び移転の各登記をするに必要な委任状への押印を承諾し、新開に印鑑登録証明書・権利証を交付したものというべきである。もっとも、新開はヨネ子に対し右分筆・移転の各登記について具体的に説明したり、交換の対象となる土地を特定したとは認め難いが、ヨネ子は本件開発申請に同意していたものであるから、前記押印の承諾・権利証の交付を右開発工事に必要な手続の一環として理解し、それに協力する趣旨でなしたものと認められ、右分筆及び移転登記だけでなく交換による右所有権の移転そのものについても暗黙のうちにこれを了承していたものと解すべきである。しかしながら、交換契約は両当事者が目的物の給付を負担するだけで成立するが、そのためには交換の対象たる両目的物が特定していることが必要である。そうすると、三立の亡保子に提供すべき土地の特定がない前記交換契約はその効力が生ぜず、したがって、右契約に基づき前記分筆土地の所有権が三立に移転するに由ないものと言うべきである。三立が第三工区で交換の見返り土地を予定していたことも、右判断を左右するものではない。また、控訴人池田も本件開発行為に賛成し、開発許可申請書に押印したものであるから、前記二三四二番三の土地の分筆・移転登記関係書類への押印、印鑑登録証明書等の交付も前同様の趣旨でなされたものと認めるのが相当で、これについても交換対象土地の特定がないことは前記と同断であるから、右土地の所有権が三立に移転するいわれはない。

したがって、右抗弁は採用できない。

三  次に、被控訴人は抗弁として、被控訴人の本件(一)、(二)の各土地部分の所有権の取得について民法九四条二項の類推適用を主張するので検討する。

前記二で認定の各事実によると、次の事実が明らかである。

1  本件開発に関して亡保子から一切の手続を任されていたヨネ子、及び控訴人池田は、本件各分筆及び所有権移転登記手続を暗黙のうちに了承しこれに必要な押印に協力し、印鑑登録証明書・権利証を新開に交付し、同人は三立の代表者として同社が亡保子から本件(一)の土地部分を、控訴人池田から本件(二)の土地部分をいずれも交換を原因として所有権を取得したとしてその登記手続をなし、その結果右各登記が経由されるに至ったのであるが、これについては亡保子及び控訴人池田も新開に協力していたものである。

2  そうすると、右各登記はいずれもその原因である交換が有効に成立するに至っていない時期になされた無効なものであるが、右登記の実現については亡保子及び控訴人池田がそれぞれ新開と相通じてこれをなしたものと言わざるをえない。

3  一方、補助参加人は本件(一)、(二)の各土地部分を三立から売買によってその所有権を取得したが、もとより三立の右各土地についての所有権取得登記が前記2のとおりの事情の下になされた無効のものであることなど知らず、もし、これを知っていれば当然その所有権の取得を断念したものと考えられる。

4  補助参加人は本件(一)、(二)の各土地部分を買い受けるについては、これが三立の所有するものであるか否かについて調査したことは当然と思われるが、右各土地部分が県知事の開発許可によって造成されたものの一部であることは一見して明白であり、かつ、三立に対する所有権移転登記も既に経由されているため、これらを信じて買い受けたものと考えられ、通常の注意義務は尽しているものというべきであるから、補助参加人が右買受けについてなんらかの過失があったとは解し難い。

右各事実によると、三立の本件(一)、(二)各土地部分の交換による所有権取得は虚偽のもので、これを原因とする所有権取得登記は無効であるとしても、補助参加人は虚偽の事実に基づきなされた三立を所有者とする登記簿の記載を信じて同社から右各土地部分を買い受けた善意・無過失の第三者と認められるから、民法九四条二項、一一〇条を類推適用し、右各登記の作出を了承しこれに協力したヨネ子にその権限を授与した亡保子の承継人である控訴人由香利、及び控訴人池田はいずれも補助参加人ないし同人から右各土地部分を譲り受けた被控訴人に対し、三立が右各土地部分の所有権を取得しなかったことを主張できないものと解すべきである。

したがって、右抗弁は理由がある。

四  そうすると、その余の判断に及ぶまでもなく控訴人らの本訴各請求は、いずれも失当として棄却を免れない。

五  よって、結論において右と同旨の原判決は相当で、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用及び参加費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高田政彦 裁判官 早井博昭 上野利隆)

<以下省略>

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